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東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)22号 判決 1990年1月29日

東京都新宿区大久保二丁目六番一〇号

原告

株式会社協栄エンタープライズ

右代表者代表取締役

金平正紀

右訴訟代理人弁護士

森田文行

東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号

被告

渋谷税務署長事務承継者

新宿税務署長

河村修司

右指定代理人

武井豊

白井成彦

宮岡孝

村田太一郎

小林洋嗣

主文

一  本件訴えのうち、原告の昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和五五年九月三〇日付けでした重加算税の賦課決定の取消しを求める部分及び原告の昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和六〇年九月一一日付けでした過少申告加算税の賦課決定の取消しを求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和五五年九月三〇日付けでした重加算税の賦課決定並びに昭和五七年一二月二五日付けでした更正のうち所得金額八九九五万七一五五円、納付する税額三七六三万七二〇〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定を取り消す。

2  原告の昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和六〇年九月一一日付けでした更正のうち所得金額三七九三万四九八一円、納付する税額一三八五万五五〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

本件訴えのうち、原告の昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和五五年九月三〇日付けでした重加算税の賦課決定の取消しを求める部分を却下する。

2  本案の答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和五四事業年度」という。)の法人税について原告がした確定申告及び修正申告並びに渋谷税務署長がした賦課処分等の経緯は別表1記載のとおりであり、昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和五五事業年度」といい、昭和五四事業年度と併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について原告がした確定申告及び渋谷税務署長がした課税処分等の経緯は別表2記載のとおりである。

2  しかしながら、右各更正(昭和五五事業年度については再更正。以下「本件各更正」という。)は原告の本件各事業年度の所得金額をいずれも過大に認定したものであるから違法である。また、原告の昭和五四事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和五五年九月三〇日付け及び昭和五七年一二月二五日付けでした各重加算税賦課決定並びに原告の昭和五五事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和六〇年九月一一日付けでした過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下、これらの賦課決定を「本件各賦課決定」という。)は、本件各更正を前提としてされたものであるから違法であり、右各重加算税の賦課決定は隠ぺい又は仮装の事実がないにもかかわらずなされた点でも違法である。

3  本件訴訟の係属中に原告の本店所在地が変更されたため、本件訴訟に関する渋谷税務署長の権限は被告が承継した。

よって、原告は本件各更正及び本件各賦課決定の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

原告が取消しを求める別表1の順号3の重加算税賦課決定は、国税通則法七五条一項一号所定の処分に該当することが明らかであるから、右賦課決定の取消しを求める訴えは、異議申立て及び審査請求をし、異議決定及び審査裁決を経た後でなければ提起することができない。しかるに、原告は、右賦課決定について異議申立て及び審査請求のいずれも行っておらず、したがって異議決定及び審査裁決も経ていないし、国税通則法一一五条一項ただし書き各号に定める事由も認められない。よって、本件訴えのうち、右賦課決定の取消しを求める部分は不適法である。

三  被告の本案前の主張に対する認否

被告の本案前の主張は争う。

四  請求原因に対する認否

請求原因1及び3は認めるが、同2は争う。

五  被告の主張

1  原告の本件各事業年度の所得金額及び算出根拠は次のとおりであって、本件各更正はいずれも右各所得金額の範囲内であるから適法である。

(一) 原告の昭和五四事業年度の所得金額は次のとおり一億〇九九五万七一五五円である。

(1) 申告所得金額 八九九五万七一五五円

原告が昭和五五年九月四日付けで渋谷税務署長に提出した昭和五四事業年度の法人税の修正申告書に記載されていた所得金額である。

(2) 興業権譲渡益計上もれ額 二〇〇〇万円

原告は、昭和五四年二月一日、訴外三村清正(以下「訴外三村」という。)及び訴外鈴木正文(以下「訴外鈴木」という。)に対し、同年七月二九日に北九州市で開催予定であったプロボクシング世界ジユニアフライ級タイトルマッチ具志堅用高対ラフアエル・ペドロサ戦(以下「具志堅戦」という。)の興業権を四〇〇〇万円で譲渡し、その際、右譲渡の仲介をした訴外遠山甲(以下「訴外遠山」という。)に対し手数料五〇〇万円を支払った。したがって、原告は右興業権譲渡益として三五〇〇万円を計上すべきところ、これを一五〇〇万円であるとして修正申告を行っていたので、その差額二〇〇〇万円を所得金額に加算した。

(二) 原告の昭和五五事業年度の所得金額は別表3記載のとおり五八九七万四九八一円であり、その詳細は次のとおりである。

(1) 申告所得金額 三七九三万四九八一円

原告の昭和五五事業年度の法人税の確定申告書に記載されていた所得金額である。

(2) 興業収入計上もれ額 二四九〇万円

原告は、昭和五五年一一月二〇日蔵前国技館で行われたプロボクシング世界ジユニアライト級タイトルマッチ上原康恒対レオナルド・エルナンデス戦(以下「上原戦」という。)の興業を自ら主催し、これに係る興業収入として三四七〇万円を得たにもかかわらず、原告は右興業に係る権利を訴外有限会社山神プロモーシヨン(以下「山神プロモーシヨン」という。)に一〇〇〇万円で譲渡したとして、右金額を益金に算入していた。そこで、右三四七〇万円と一〇〇〇万円の差額二四七〇万円を興業収入金額の計上もれ額として申告所得金額に加算した。

(3) テレビ放送電力料計上もれ額 三万円

原告が、昭和五五年一〇月一六日、上原戦の会場になった蔵前国技館の所有者である財団法人日本相撲協会(以下「日本相撲協会」という。)に対して、上原戦のテレビ放送のための電力料として支払った三万円を損金として認め、申告所得金額から減算した。

(4) 館内マイク使用料計上もれ額 三万円

原告が、昭和五五年一〇月一六日、日本相撲協会に対して、上原戦のために蔵前国技館の館内マイク使用料として支払った三万円を損金として認め、申告所得金額から減算した。

(5) フアイトマネー計上もれ額 三〇〇万円

上原戦の前座試合の選手に対するフアイトマネーとして原告が支払った三〇〇万円を損金として認め、申告所得金額から減算した。

(6) 事業税認容額 六〇万円

原告の昭和五四事業年度の法人税の更正により増加した所得金額に対応する事業税相当額を申告所得金額から減算した。

2  本件各重加算税の賦課決定の根拠について

被告が本件各事業年度の重加算税の対象所得とした金額は、次のとおりであり、この金額に基づき国税通則法六八条一項所定の計算方法により重加算税額を算定し賦課決定をした。

(一) 昭和五四事業年度

原告は、具志堅戦の興業権に際し、譲渡金額を一五〇〇万円、譲受人を株式会社三東企画及び株式会社正武プロダクシヨンとする等虚偽の契約書を作成し、興業権の譲渡代金の一部を除外し、隠ぺいしていたが、これは法人税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい又は仮装したところに基づいて確定申告書を提出したことにあたる。

そこで、被告は、右譲渡収入計上もれのうち五〇〇万円を重加算税対象所得とした。

(二) 昭和五五事業年度

原告は、上原戦に係る興業を自ら主催し、その収支の一切につき原告の計算と責任において行ったものであるにもかかわらず、右興業に係る権利を山神プロセーシヨンに対して一〇〇〇万円で譲渡したかのような虚偽の契約書を作成して、右興業に係る収入金額のうち二四七〇万円を当期の益金の額に算入しなかったものであり、これは法人税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい又は仮装したところに基づいて確定申告書を提出したことにあたる。

そこで、前記において示した所得金額五八九七万四九八一円から原告の確定申告に係る所得金額三七九三万四九八一円を控除した二一〇四万円を重加算税対象所得とし、国税通則法六八条一項所定の計算方法に基づいて重加算税の額を算定すると二五二万四〇〇〇円となるところ、本件重加算税の賦課決定は右金額の範囲内であるから適法である。

六  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の冒頭の主張は争う。

同1(一)の冒頭の主張は争う。

同1(一)(1)は認める。

同1(一)(2)のうち、原告が昭和五四年二月一日訴外三村及び訴外鈴木に対し具志堅戦の興業権を譲渡したこと及び右興業権の譲渡益を一五〇〇万円として修正申告を行ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

同1(二)の冒頭の主張は争う。

同1(二)(1)は認める。

同1(二)(2)のうち、原告が上原戦の興業権を山神プロモーシヨンに一〇〇〇万円で譲渡したとして右金額を益金に算入していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同1(二)(3)ないし(6)は認める。

2  同2の事実は否認し、主張は争う。

七  原告の反論

1  具志堅戦について

原告は、訴外三村及び訴外鈴木に対して、一五〇〇万円で具志堅戦の興業権を売り渡した。

仮に、右代金額が四〇〇〇万円であったとしても、そのうち二〇〇〇万円は訴外三村に対して具志堅戦の開催経費として支払い、五〇〇万円は訴外遠山に対して仲介手数料として支払った。

したがって、原告が取得した具志堅戦の興業権の譲渡益は一五〇〇万円である。

2  上原戦について

(一) 原告は、山神プロモーシヨンに対して上原戦の興業権を一〇〇〇万円で売却したのであるから、原告が上原戦に関して得た収益は一〇〇〇万円である。

仮に、右主張が認められないとしても、被告が主張する上原戦の興業収入三四七〇万円は、原告が浅草税務署長に提出した「入場税課税興業終了納税申告・申請書」に記載された領収料金の額であって、これは入場券の券面額の合計額であるところ、上原戦は人気がなかったため、券面額の三割あるいは四割の金額で入場券を売ったりしたが、それでも売残りが出、また、原告が入場券の販売を委託した人の中には、原告に入場券の売上代金を支払っていない人もいる。したがって、上原戦の興業収入が三四七〇万円であるということはできない。

(二) 原告は、上原戦に関する経費として、被告が認めるもののほかに、日本相撲協会に対して蔵前国技館の賃借料として二五〇万円を支払い、その他にもホテル代、スパーリング費用等を支払っているから、これらの金額の損金算入を認めるべきである。

八  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1のうち、原告が上原戦の興業権を訴外三村及び訴外鈴木に売り渡したこと及び訴外遠山に対して手数料五〇〇万円を支払ったことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。仮に、原告が訴外三村に対して二〇〇〇万円を支払ったとしても、右支払は同人に対する役務の対価としての性質を有しないから、贈与金あるいは貸付金というべきであり、右金員を損金に算入すべきではない。

2  同2(一)のうち、被告が主張する上原戦の興業収入三四七〇万円は、原告が浅草税務署長に提出した「入場税課税興業終了納税申告・申請書」に記載された領収料金の額であることは認めるが、原告が山神プロモーシヨンに対して上原戦の興業権を一〇〇〇万円で売却したことは否認し、その余の事実は知らない。なお、原告が入場券の販売を委託した場合には、委託販売に係る売上高及びその未収債権は試合開催日までに確定するものであり、右確定した金額をそれぞれ経理処理すべきである。また、原告が委託販売に基づく債権を放棄したとするならば、それは販売を委託した者に入場券を売って儲けさせる目的でなされたものであるから、交際費と評価すべきであり、無償配布又は値引販売があったとするならば、特定の選手又はボクシングジムに対する講演会あるいは友人等に対する贈答を目的としたものであるから、交際費とみるべきであるところ、原告の交際費は限度額を超えているから、右の交際費の金額を損金に算入することはできない。

同2(二)のうち、原告が上原戦を行うために日本相撲協会に対して蔵前国技館の賃借料として二五〇万円を支払ったことは認めるが、その余の事実は知らない。右賃借料は、原告が昭和五五事業年度の興業費用として捐金に算入済みのものである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び3については、当事者間に争いがない。

二  まず、訴えの適法性について検討する。

1  原告の昭和五四事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和五五年九月三〇日付けでした重加算税の賦課決定の取消しを求める訴えについて

国税通則法七五条一項一号及び三号によれば、重加算税の賦課決定については、右賦課決定をした税務署長に対して異議申立てをすることができ、異議決定を経た後の処分になお不服があるときは、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができるから、同法一一五条一項により、右賦課決定の取消しを求める訴えは、同項各号所定の事由がない限り、異議決定及び審査裁決を経た後でなければ提起することができないところ、前記当事者間に争いがない事実によれば、昭和五五年九月三〇日付けでされた重加算税の賦課決定については原告が異議申立て及び審査請求をしていないことは明らかであり、しかも、国税通則法一一五条一項各号所定の事由の存在を窺うに足る証拠もないから、右訴えは、不服申立ての前置を欠き不適法である。

2  原告の昭和五五事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和六〇年九月一一日付けでした過少申告加算税の賦課決定の取消しを求める訴えについて

原告は、原告の昭和五五事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和六〇年九月一一日付けで過少申告加算税の賦課決定をしたとしてその取消しを求めているところ、前記当事者間に争いがない事実から明らかなように、渋谷税務署長は昭和六〇年九月一一日付けでは過少申告加算税の賦課決定を行っていないから、右訴えは、取消しの対象を欠き不適法である。

なお、右訴えを原告の昭和五五事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和五七年一二月二五日付けでした過少申告加算税の賦課決定の取消しを求めるものと解したとしても、前記当事者間に争いがない事実から明らかなように、右賦課決定は渋谷税務署長が昭和六〇年九月三〇日付けでした決定で取り消されているから、右訴えは、訴えの利益を欠き不適法である。

三  次に、原告は、本件各更正は原告の本件各事業年度の所得金額を過大に認定したものであると主張するので、この点について検討する。

1  昭和五四事業年度

(一)  被告の主張1(一)(1)(申告所得金額)については、当事者間に争いがない。

(二)  興業権譲渡益計上もれ額(被告の主張1(一)(2))について

(1) 原告が昭和五四年二月一日訴外三村及び訴外鈴木に対し具志堅戦の興業権を譲渡したこと及び原告が右興業権譲渡益を一五〇〇万円として修正申告を行っていたことは、当事者間に争いがない。

(2) 具志堅戦の譲渡の経緯等について、当事者間に争いがない原告が昭和五四年二月一日に訴外三村及び訴外鈴木に対し具志堅戦の興業権を譲渡したとの事実に成立に争いのない乙第一号証の二、三、第二号証の二、三、第三号証の二及び第八号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第五号証、証人岡田則男の証言によって真正に成立したものと認められる乙第一号証及び第二号証の各一、証人鈴木徹の証言によって真正に成立したものと認められる乙第三号証の一、証人鈴木正文の証言によって真正に成立したものと認められる乙第一号証の四及び第三号証の三、証人鈴木正文、同三村清正及び同遠山甲の各証言(ただし、証人三村清正及び同遠山甲の各証言については、後記採用しない部分を除く。)並びに原告代表者尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く)を併せると、以下の事実を認めることができる。

<1> 訴外三村は、訴外遠山及び村岡紀英(以下「訴外村岡」という。)の仲介で具志堅戦の興業を行おうと考え、出資者を探していたところ、内田良平(以下「訴外内田」という。)から訴外鈴木を紹介された。一方、訴外鈴木は、訴外内田から四〇〇〇万円で具志堅戦の興業権を買わないかとの誘いを受け、これを了承し、兄から一〇〇〇万円を、竹内陽一(以下「訴外竹内」という。)から二〇〇〇万円を、窪田操(以下「訴外窪田」という。)から一〇〇〇万円をそれぞれ借り受けて、具志堅戦の興業権の買収資金を準備した。

<2> 昭和五四年二月一日、原告の事務所に原告代表者である金平正紀(以下「訴外金平」という。)、訴外三村、訴外鈴木、訴外遠山、訴外村岡、訴外竹内及び訴外窪田が集まり、訴外三村及び訴外鈴木が原告から具志堅戦の興業権を買い受ける旨の契約書を作成することになった。ところで、準備された契約書では売買代金額が一五〇〇万円となっていたので、訴外鈴木は異議を述べたが、訴外金平の要請で訴外鈴木もやむを得ずこれを承諾し、訴外鈴木及び訴外三村が具志堅戦の興業権を原告から一五〇〇万円で買い受ける旨の契約書が作成され(なお、契約書上、買い主は株式会社正武プロダクシヨン(代表者は訴外鈴木)及び株式会社三東企画(代表者は訴外三村)とされているが、実際の買い主は、前記のとおり訴外鈴木及び訴外三村であるから、株式会社正武プロダクシヨンは訴外鈴木を、株式会社三東企画は訴外三村をそれぞれ表示したものと認められる。そして、基本となる契約書の表示が右のようなものである以上、これに付随して作成された念書、契約書においても右と同様の表示方法がとられたものと認められる。)、訴外鈴木が持参した四〇〇〇万円のうち一五〇〇万円は訴外金平がとり、その旨の領収証が訴外鈴木に渡された。また、原告と訴外遠山の取決めに基づいて、右金員のうち五〇〇万円は訴外遠山が仲介手数料として取得し、その旨の原告宛の領収証を原告に渡し、残りの二〇〇〇万円は訴外村岡が持ち帰った。

訴外鈴木は、具志堅戦の興業権の売買代金として四〇〇〇万円を出したつもりであったのに、契約書上売買代金額が一五〇〇万円とされたため、不可抗力あるいは選手の病気、負傷等により具志堅戦が行われなくなり、右売買契約が解除された場合に自己の出した四〇〇〇万円が返還されないのではないかとの危惧を抱き、右金員の返還を確実なものにするため、原告との間で、右のような場合には原告が訴外鈴木に四〇〇〇万かを支払うことなどを内容とする念書を作成した。また、訴外遠山及び訴外村岡と原告との間で、原告が右念書に基づき訴外鈴木に四〇〇〇万円を支払うこととなった際には、そのうち二〇〇〇万円を訴外遠山及び訴外村岡が支払う旨の念書が作成された。さらに、訴外鈴木と訴外三村との間で、選手の交通費、宿泊費及び広告宣伝費等は訴外三村が負担する旨の契約書が作成された。

<3> 訴外三村は、昭和五四年二月三日に、訴外村岡から具志堅戦の開催経費として二〇〇〇万円を受け取り、訴外遠山及び訴外村岡宛の領収証を訴外村岡に手渡した。

以上の事実を認めることができ、証人三村清正及び同遠山甲の各証言並びに原告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

(3) ところで、証人鈴木正文は、具志堅戦の興業権の売買代金額は四〇〇〇万円であったと供述し、前掲乙第一号証及び第二号証の各一にも同旨の記載があるのに対して、証人三村清正、同遠山甲及び原告代表者は、右売買代金額は一五〇〇万円であり、二五〇〇万円は具志堅戦の開催経費であったと供述するところ、右認定の訴外鈴木と原告との間で作成された念書並びに訴外遠山及び訴外村岡と原告との間で作成された念書の各内容、訴外遠山が取得した仲介手数料は原告との取決めによるものであり、領収証の宛先が原告となっていること並びに訴外三村が受け取った二〇〇〇万円についての領収証の宛先が訴外遠山及び訴外村岡となっていることに鑑みると、訴外鈴木の準備した四〇〇〇万円は同人から訴外金平に支払われ、そのうち五〇〇万円は訴外金平から訴外遠山に、また、二〇〇〇万円は訴外金平から訴外村岡に、訴外村岡から訴外三村にそれぞれ支払われたものと認めるのが相当であり、具志堅戦の興業権の売買代金以外には訴外鈴木が原告に支払をする理由はないと考えられるから、右売買代金額は契約書の記載にもかかわらず四〇〇〇万円であったというべきである。したがって、具志堅戦の興業権の売買代金額については、証人鈴木正文の証言並びに乙第一号証及び第二号証の各一の記載を採用すべきであり、証人三村清正、同遠山甲及び原告代表者の右供述は採用することができない。

(4) 原告は、具志堅戦の興業権の売買代金額が四〇〇〇万円であったとするならば、訴外三村に支払われた具志堅戦の開催経費二〇〇〇万円及び訴外遠山に支払われた仲介手数料五〇〇万円を差し引いた一五〇〇万円が具志堅戦の興業権の譲渡益であると主張するところ、具志堅戦の興業権の譲渡益を算出するに当たり訴外遠山に支払われた五〇〇万円を控除すべきことは当事者間に争いがなく、また、具志堅戦の開催経費として原告から訴外三村に二〇〇〇万円が支払われたことは前記認定のとおりであるが、右二〇〇〇万円は具志堅戦の興業権の譲渡についての経費たるべき性質を持つものでないことは明らかであるから、右二〇〇〇万円については原告の主張は採用することができない。

(5) 以上によれば、具志堅戦の興業権の譲渡益は、四〇〇〇万円から五〇〇万円を差し引いた三五〇〇万円となるところ、原告が右金額を一五〇〇万円として修正申告を行っていたことは、前記のとおり、当事者間に争いがないから、興業権譲渡益計上もれ額は二〇〇〇万円となる。

(三)  したがって、原告の昭和五四事業年度の所得金額は一億〇九九五万七一五五円となる。

2  昭和五五事業年度

(一)  被告の主張1(二)のうち、(1)(申告所得金額)、(3)「テレビ放送電力料計上もれ額)、(4)(館内マイク使用料計上もれ額)、(5)(フアイトマネー計上もれ額)及び(6)(事業税認容額)については、当事者間に争いがない。

(三)  興業収入計上もれ額(被告の主張1(二)(2))について

(1) 原告が上原戦の興業権を山神プロモーシヨンに一〇〇〇万円で譲渡したとして右金額を益金に算入していたことは、当事者間に争いがない。

(2) 被告は、上原戦の興業を行ったのは原告であると主張するのに対して、原告は、右興業権は山神プロモーシヨンに譲渡されたと主張するので、上原戦の興業を行った者が誰であるかについて検討するに、証人山神淳一の証言によって真正に成立したものと認められる乙第四号証の一、同証言及び原告代表者尋問の結果によれば、上原戦の興業を行ったのは原告であると認めることができる(なお、山神プロモーシヨンが原告から上原戦の興業権を一〇〇〇万円で買い受ける旨の契約書(乙第四号証の二)が存在するところ、証人山神淳一及び原告代表者は、山神淳一(以下「訴外山神」という。)が数人のグループの代表として原告から上原戦の興業権を一〇〇〇万円で買い受けたが、上原戦が開催される前に右契約は合意解除された旨を供述し、乙第四号証の一、四にも同旨の記載があるから、仮に、原告が上原戦の興業権を訴外山神あるいは山神プロモーシヨンに譲渡したことがあったとしても、上原戦の興業を行ったのは原告であるとの前記認定を覆すに足りない。)。

(3) 次に、上原戦の興業収入額について検討するに、原告が浅草税務署長に提出した入場税課税興業終了納税申告・申請書に記載された領収料金の額が三四七〇万円であったことは当事者間に争いがなく、右事実に成立に争いのない乙第五号証及び第六号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第九号証及び第一一号証並びに原告代表者尋問の結果を併せると、浅草税務署長の検印を受けた上原戦の入場券の総数は七五五四枚で、その券面額の合計は一億〇八〇五万九〇〇〇円であり、このほかに入場券が課税されない三〇〇〇円の入場券も販売されたこと、原告は、右七五五四枚の入場券のうち二三五二枚を使用し、三四七〇万円の入場料金を領収した旨の入場税課税興業終了納税申告・申請書を浅草税務署長に提出し、同署長に対して未使用の五二〇二枚の入場券を返納するとともに、右入場料金に対する入場税三一五万四五〇〇円を納付したこと、入場券の検印、入場税課税興業終了納税申告・申請書の提出・入場券の返納及び入場税の納付等の手続は原告代表者であった訴外金平自らが行ったこと、以上の事実が認められるのであって、右設定の事実によれば、上原戦の入場券の売上は三四七〇万円以上あったと認めることができる

ところで、原告は、券面額の三割あるいは四割の金額で入場券を売ったりしたが、それでも売残りが出、また、原告が入場券の販売を委託した人の中には原告に入場券の売上代金を支払っていない人もいるが、上原戦の興業収入は三四七〇万円もなかった旨を主張し、証人山神淳一、同鈴木盈及び原告代表者は、上原戦の入場券は券面額で売ったり、値引きして売ったりしたが売残りが出、また、招待券の代わりに優良入場券を渡したこともあり、さらに、原告から入場券の販売委託を受けた訴外山神等は入場券の売上代金を原告に渡していない旨原告の主張に沿う供述をする。しかしながら、仮に、原告から入場券の販売委託を受けた者が売上金を原告に渡さないということがあったとしても、原告はその者に対して売上金額に相当する金員の支払請求権を取得するのであるから、右売上金額に相当する収益が発生していないということはできないし、また、前記認定の事実によれば、売残りの入場券は浅草税務署長に返納されたということができるから、売残りが出たということは上原戦の入場券の売上が三四七〇万円以上あったとの前記認定を覆すものではなく、さらに、有料入場券を無償配布あるいは値引販売したとの点については、右各供述は誰に対して、どの程度、いかなる種類の入場券を無償配布あるいは値引販売したのかについて具体性に極めて乏しいものであるから到底採用することができないのであって、結局、右各供述は上原戦の入場券の売上が三四七〇万円以上あったとの前記認定を覆すに足りないものというべきである。原告の主張は採用することができない。

(4) 以上によれば、上原戦の興業に関して二四七〇万円の収入の計上もれがあることは明らかである。

(三)  原告は、上原戦の経費として、日本相撲協会に対して蔵前国技館の賃借料として二五〇万円を支払い、その他にもホテル代、スパーリング費用等を支払ったのであるから、これらの金額の損金算入を認めるべきであると主張するので、この点について検討する。

(1) 蔵前国技館の賃借料二五〇万円について

<1> 原告が上原戦を行うために日本相撲協会に対して蔵前国技館の賃借料として二五〇万円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

<2> 成立に争いのない乙第一四号証、第一五号証及び第一六号証の一、二、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一三号証の一ないし四によれば、原告は右賃借料を昭和五五年一〇月一五日に小切手で支払ったこと、原告は右同日付けで右二五〇万円を当座預金から出金し、これを山神ジムに対して貸し付けたとする経理処理をしていたこと、原告は昭和五五年一二月三一日付けで山神ジムに対する右貸付金を仕入高勘定に振り替える経理処理を行い、その結果昭和五五事業年度末の仕入高勘定は一億三七九八万一五五八円となったこと、原告の昭和五五事業年度の損益計算書では右一億三七九八万一五五八円はボクシング経費として計上されており、そのほかにフアイトマネー一億四〇〇九万八六四〇円も経費として計上されていること、原告の昭和五五事業年度の確定決算報告書の損益計算書のボクシング原価二億七八〇八万〇一九八円は右のボクシング経費とフアイトマネーとの合計額と一致していること、原告は、昭和五五事業年度の確定申告において、右確定決算報告書に記載された当期利益二〇〇八万一七三一円と同額の当期利益があったことを前提として所得金額を算出していること、以上の事実が認められるのであって、右認定の事業によれば、原告が日本相撲協会に対して蔵前国技館の賃借料として支払った二五〇万円は、原告の昭和五五事業年度の確定申告において損金に算入されているものというべきである。

(2) その他の費用について

原告が主張するホテル代、スパーリング費用等については、原告がその支払をしたこと及びその費用が確定申告において損金に算入されていた経費ではないことを証する証拠が全く提出されていないのであって、このことに鑑みると、原告が確定申告において損金に算入していたもの以外にはホテル代、スパーリング費用等の支払はなかったと認めるのが相当である。

(四)  したがって、原告の昭和五五事業年度の所得金額は五八九七万四九八一円となる。

3  以上のとおり、原告の所得金額は昭和五四事業年度が一億〇九九五万七一五五円、昭和五五事業年度が五八九七万四九八一円であるところ、本件各更正は右金額の範囲内でなされたから、本件各更正には原告の所得金額を過大に認定した違法はない。

四  重加算税及び過少申告加算税の賦課決定の適法性について

1  昭和五七年一二月二五日付けの昭和五四事業年度に係る重加算税の賦課決定の適法性

前記三1(二)のとおり、原告は具志堅戦の興業権を四〇〇〇万円で譲渡したにもかかわらず、右譲渡代金を一五〇〇万円とする虚偽の契約書を作成し、右譲渡代金のうち二五〇〇万円を除外して修正申告を行っていたのであるから、法人税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装し、その仮装したところに基づいて修正申告書を提出していたというべきであるところ、昭和五四事業年度の更正によって増加した所得金額は五〇〇万円であって、その金額が右仮装に基づくものであるということができるから、右の増加した所得金額に対応する法人税額全額を対象としてなされた昭和五七年一二月二五日付けの昭和五四事業年度に係る重加算税の賦課決定適法である。

2  昭和六〇年九月一一日付けの昭和五五事業年度に係る重加算税の賦課決定の適法性

前記三2(二)のとおり、原告は上原戦を自ら興業し、三四七〇万円を超える収入を得ていたにもかかわらず、上原戦の興業権を一〇〇〇万円で譲渡したとする契約書を作成し、これに基づいて確定申告を行っていたのであるから、法人税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装し、その仮装したところに基づいて確定申告書を提出していたというべきであるところ、昭和五五事業年度の再更正によって増加した所得金額は二一〇四万円であって、その全額が右仮装に基づくものであるということができるから、右の増加した所得金額に対応する法人税額のうち六〇七万四八〇〇円を対象としてなされた昭和六〇年九月一一日付けの昭和五五事業年度に係る重加算税の賦課決定は適法である。

五  結論

よって、原告の本件訴えのうち、昭和五四事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和五五年九月三〇日付けでした重加算税の賦課決定及び昭和五五事業年度の法人税について渋谷税務署長が昭和六〇年九月一一日付けでした過少申告加算税の賦課決定の取消しを求める部分は不適法であるから、これを却下し、その余の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達偲 裁判官 北澤晶 裁判官 三村晶子)

別表1

昭和五四事業年度(五四・一・一~五四・一二・三一)分の課税処分等の経緯

<省略>

別表2

昭和五五事業年度(五五・一・一~五五・一二・三一)分の課税処分等の経緯

<省略>

別表3

<省略>

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